新安保法制違憲長崎訴訟・最高裁判所第三小法廷決定に対する声明
2024年4月17日
新安保法制違憲長崎訴訟弁護団
新安保法制が日本国憲法に違反し、上告人らの平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権が侵害するものとして、国に対して損害賠償を求めた新安保法制違憲国賠請求事件において、最高裁判所第三小法廷・林道晴裁判長は、令和6年4月10日、上告人らの上告・上告受理申立てを退ける決定を行った。
その理由として、本決定は、「本件上告の理由は、明らかに民訴法312条1項又は2項所定の事由に該当しない。」「上告受理申立てについては、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。」という定型のものを述べるのみである。
しかし、原審判決(福岡高等裁判所第1民事部)には、「憲法の解釈の誤り」「その他憲法の違反」(民訴法312条1項)が存することは明らかである。今回の最高裁の判断は、憲法の基本原理を侵害し続ける政府の暴走に迎合し、司法としての役割を放棄するものと言わざるを得ない。最高裁の違憲審査権は、国の根本法である憲法を、その違反や破壊から守る憲法保障・立憲主義の根幹をなすものである。それにもかかわらず、前例のない憲法破壊が行われた本件について、最高裁は、その責務から逃避したのであり、到底、許されるものではない。
全国で新安保法制違憲訴訟の判決が多数出される中、裁判所に立法・行政へのブレーキとしての職責を果たす意思がないという現実があぶり出されている。立法・行政・司法の三権による権力分立のもと、互いに抑制し合い、特定の権力による暴走を食い止めるという日本国憲法の理念は形骸化してしまった。その結果、時の政府は、制限なく国のありようを決めることができる状況にあるといえる。
我々が提起した新安保法制違憲訴訟は、裁判所が立法・行政に無批判に追随し、歯止めとなっていない現実を白日の下にさらしたという意味では、一定の意義があったものと考えている。我々は、ここで立ち止まることなく、権力に対するブレーキが機能していないという現実を見据えながら、今後、立憲主義を守るための方法を模索し続けていく必要がある。
一方で、本決定には「本件申立ての理由によれば本件は民訴法318条1項の事件に当たる」ものとし、上告を受理すべきであるとする宇賀克也裁判官の反対意見が付された。民訴法318条1項の事件とは「法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」である。すなわち、宇賀克也裁判官の反対意見は、新安保法制の憲法適合性を最高裁として審査すべきであることを表明するものである。これは、違憲審査権を有する最高裁の職責に照らし極めて正しい判断であるとともに、本来あるべき最高裁の姿である。このように、最高裁の裁判官の中にも、違憲立法審査権の意義を適切に認識し、憲法判断を行うべきと考える裁判官はいる。同様に、下級審の裁判所にも、法律家としての良心を持つ裁判官は多数存在するはずである。我々は、そのような裁判官の声を世に明らかにするために、今後も活動していかなければならない。行政法学の権威である宇賀克也裁判官による反対意見は、時の政府に迎合し、憲法判断を避け続ける各裁判所に対して「新安保法制の違憲性と向き合わなければならない」という強いメッセージを発するものであり、全国各地の裁判官が過不足なく受け取ることと期待している。
一般国民、特に法律家が、裁判所の過ちを正すことを諦めれば、権力は暴走し続け、歯止めは最早存在しないということになる。我々は、立憲主義が回復されるまで、これからも断固として闘い続けることをここに表明する。