1 長崎地裁への提訴
2016年(平成28年)6月8日、長崎地方裁判所に対し、被爆者、そして被爆2世の方々合計118名を原告とする安保法制違憲国賠訴訟を提起いたしました。
2 本訴訟の意義について
(1)新安保法制は違憲であること
昨年9月19日に成立したとし、本年3月29日に施行された新安保法制は、集団的自衛権の行使を前提とする法律ですが、この集団的自衛権の行使は、日本国憲法では容認されていないものです。つまり、憲法は9条2項で「国の交戦権は、これを認めない」と定めていますが、自衛を越えて他国と戦う集団的自衛権の行使は、憲法9条2項が認めていない「交戦」に当たります。又、これまでの歴代内閣も永年にわたり集団的自衛権行使は憲法に違反すると解釈してきたもので、この解釈は永年定着したものです。
さらに、新安保法制が認めた後方支援活動、協力支援活動の実施は、直接戦闘行為に加わらないとしても、他国の軍隊の武力行使と一体化し、又はその危険性が極めて高いものであって、憲法9条に違反するものといわざるを得ません。
このように新安保法制は明らかに違憲の法律です。
(2)憲法改正手続を経ずに憲法は変えられないこと
日本国憲法は、個人を尊厳ある存在であると宣言し、その基本的人権の尊重と国民主権、さらに平和主義を基本原則として制定されました。
時の権力者が権力を濫用しないよう憲法を制定するという考え方のことを立憲主義と言いますが、このような考え方は現在世界で広く定着しているものです。そして、日本国憲法も、基本的人権の不可侵性を規定するとともに、憲法の最高法規性を規定し、国務大臣、国会議員等に憲法遵守義務を課して、立法、行政、司法等において憲法に違反する行為が行われないよう立憲主義を基本とすることを明らかにしています。従って、憲法の内容を変更しようとするときには、憲法改正手続をとらなければならないのです。
ところが、内閣は集団的自衛権行使を容認することを閣議決定したうえ、これに基づく新安保法制法案を国会に提出しました。そして、国会においては、その法案の違憲性が野党だけでなく多くの憲法学者、最高裁判所裁判官経験者、内閣法制局長官経験者等から指摘され、多くの国民から反対されていたにも拘わらず、十分な審理もされないまま強行採決がなされました。このように、本来憲法改正手続をふまなければならないのに、「新安保法制」という法律で憲法の内容を変えてしまったことは、立憲主義に反するものであり、憲法改正手続を潜脱していることから言っても憲法違反の法律です。
(3)民主主義無視の手続で審議されたこと
さらには、採決に至る国会の運営では、審議時間を最初に決め、しかもその審議の中では野党の質問に十分答弁し切れていなかったり、又、このように重要かつ問題性のある法案であるにも拘わらず、公聴会が開かれたもののその内容を審議に反映することもしないままでした。国民の間でも、審議不十分との声が大多数を占めました。その上、参議院の委員会では議決も聴取不能で記録できていないというものでした。これでは民主主義無視の手続であったと言うほかありません。
(4)憲法違反の法律は放任できない
このように、その内容も手続から言っても違憲であるこの新安保法制を、私達は有効なものとして認めるわけにはいきません。これを許してしまうことは、憲法破壊への一歩を許すことになってしまいます。
時の権力者が憲法を無視し始めると、市民の人権を侵害し、国民主権を破壊し、平和主義を放棄する国家に変えることを許すことになってしまうことは、人類のこれまでの経験から明らかなことです。
そこで、私達は、一日も早くこの違憲で無効な法律を、裁判所の「違憲である」との判断を得て是正しなければならないと考えました。そして、憲法違反の法律で、自衛隊員が他国の人を殺したり、殺されたり、そして又、国民の生命、身体その他の権利が侵害されることを止めなければならないと考えました。
(5)裁判も国民主権、民主主義の実践
国民主権とは、立法、行政、司法において、国民こそがその主人公であるという意味です。したがって、今回の裁判は、主権者である国民一人一人が、これからのわが国のあり方について司法に問う裁判であると考えています。
3 市民の皆様へ
戦前、弁護士会は、先の戦争の開始と拡大に対し反対を徹底して貫くことができませんでした。日本弁護士連合会は、そのような反省の上に立って、2016年(平成28年)5月28日、「改めて憲法の立憲主義及び恒久平和主義の意義を確認するとともに、今後とも安保法制の適用・運用に反対しその廃止・改正を求めることを通じて立憲主義及び民主主義を回復するために、市民と共に取り組むことを決意する。」と宣言しました。
私達の安保法制違憲国賠訴訟に関わる活動は、まさに日本弁護士連合会も述べている「立憲主義」と「民主主義」を回復するための活動そのものであり、「法の支配」が健在であることを裁判所に示してもらうために、新安保法制の違憲訴訟を提起することは、法律家としての責務であると考えています。
是非とも多くの市民の皆様にこの訴訟についてご理解を頂き、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。